はじめに:大切な「区切り」を丁寧に行うために

長年、ご先祖様や神様をお祀りしてきた仏壇や神棚。引っ越し、家の建て替え、承継者の問題など様々な事情で処分を考えたとき、多くの方が「どこに頼めばいいのか」「供養は必要なのか」という疑問に直面します。
仏壇や神棚は、家具や調度品といった「もの」とは違います。家族の歴史や信仰の気持ちが込められた大変大切なものです。そのため、ただ単にゴミとして処分するのは気が引けるという方がほとんどでしょう。
この記事では、仏壇と神棚を心を込めて処分するための方法を供養の基礎知識から具体的な依頼先、費用相場までご紹介します。適切な手順を踏んでご先祖様や神様への感謝を伝え、安心して次のステップに進みましょう。
2.供養の基本知識:開眼供養と閉眼供養(魂抜き)とは
仏壇や神棚の処分を考える上で、まず理解しておきたいのが「供養」の考え方です。
仏壇・神棚は「魂」や「依り代」が宿る大切な存在
仏教や神道の教えにおいて、仏壇や神棚は単なる箱や飾りではありません。仏壇は、ご本尊や位牌を通じてご先祖様の魂が宿る、あるいは仏様がいらっしゃる「お家」だと考えられています。一方、神棚は神様の「依り代(よりしろ)」として、お札を通して神様の御霊が宿っていると考えられています。
この「魂が宿っている状態」を処分する前に解消する儀式が必要になります。
開眼供養(魂入れ)と閉眼供養(魂抜き)

新しい仏壇を購入・設置した際に行う儀式が「開眼供養(かいげんくよう)」、あるいは「魂入れ」「お性根入れ」などと呼ばれるものです。これは、仏壇やご本尊に魂を込め、拝む対象とするために行われます。
そして、処分や引っ越しなどで移動する前に、仏壇・ご本尊から魂を抜き、元の「ただの箱(もの)」に戻すための儀式が「閉眼供養(へいがんくよう)」です。一般に「魂抜き」「お性根抜き」「遷仏(せんぶつ)法要」とも呼ばれ、処分を行う上で最も重要な儀式となります。これを行うことで、私たちは長年お祀りした仏様やご先祖様に対してきちんと区切りをつけ、安心して仏壇を「もの」として扱えるようになるのです。
ただし浄土真宗のように、教義の違いから仏壇やお墓に魂が宿るとは考えない宗派もあります。この場合「魂抜き」という言い方はせず、「遷仏法要」や「御移徙(おわたまし)」といった独自の儀式を行いますので、必ずご自身の宗派やお寺に確認しましょう。
3.仏壇の処分方法と依頼先
閉眼供養の重要性を理解した上で、いよいよ具体的な仏壇の処分方法を見ていきましょう。
処分を依頼する前の最重要事項
仏壇を処分する際は、必ず事前に「閉眼供養(魂抜き)」を済ませておきましょう。供養を先に済ませておけば、その後の処分方法は比較的自由に選ぶことができます。
A. 菩提寺・お寺に依頼する(最も丁寧な方法)
代々お世話になっている菩提寺がある場合は、まずそこに相談するのが最も推奨される方法です。
僧侶に閉眼供養を行っていただいた後、そのままお寺で仏壇を引き取って供養・処分していただけることが多いです。この方法は最も丁寧で安心感がありますが、費用はお布施として納めるため金額は変動しやすいこと、また、仏壇の大きさや方針によっては引き取り不可で自分で運搬が必要な場合があることに注意が必要です。費用相場は、お布施として1万円~10万円程度(仏壇の大きさや地域による)が目安となります。
B. 仏具店・仏壇店に依頼する
新しい仏壇への買い替えを検討している場合は、古い仏壇の引き取りや下取りサービスを行っている仏具店に相談するのが便利です。購入が伴わない場合でも、有料で引き取りを行っているお店もあります。仏具店は手続きがスムーズに進むメリットがありますが、供養(閉眼供養)は別途お寺に依頼が必要な場合もあるため、依頼時に確認しましょう。費用相場は2万円~8万円程度ですが、買い替えの場合は割引になることがあります。
C. 専門の処分業者・遺品整理業者に依頼する

「仏壇が大きくて自分たちで運び出せない」「菩提寺との付き合いがない」といった場合は、仏壇の供養・処分を専門とする業者や、遺品整理業者に依頼するのも一つの手です。
これらの業者は自宅まで回収に来てくれ、提携のお寺などで供養(読経)を行ってから処分してくれるサービスを提供していることがあります。自宅からの運び出しも任せられるというメリットがありますが、業者選びが非常に重要です。必ず事前に見積もりと供養の内容を確認し、信頼できる業者を選びましょう。費用相場は1万円~7万円程度(仏壇のサイズによる)です。
D. 自治体の粗大ごみとして処分する(供養は必須)
費用を最も抑えられる方法ですが、感情的な抵抗を感じる方が多いかもしれません。粗大ごみとして出す場合でも必ず事前に僧侶に閉眼供養を依頼し、「ただの木の箱」に戻してから処分してください。供養を行わずに処分することは避けましょう。自治体によっては仏壇の回収を断られる場合もありますので、事前にルールを確認が必要です。費用相場は数百円~数千円程度と安価です。
4.神棚の処分方法と依頼先
神棚は神道の考え方に基づき、仏壇とは異なる手順で処分を検討します。
神棚の供養は「お焚き上げ」や「お祓い」

神棚に宿っている神様の御霊を天にお返しする儀式は、仏教の「閉眼供養」にあたる「お祓い」や「遷座祭(せんざさい)」として行われます。その後の処分は、火で清める「お焚き上げ」が最も丁寧な方法とされています。
A. 神社に依頼する(最も正式な方法)
神棚に納めていたお札は、基本的にいただいた神社に納めるか地域の氏神様の神社に納めます。
神棚本体(木製の部分)については、お正月などに古いお守りやお札を燃やす「どんど焼き」や「古札納所(こさつおさめしょ)」で受け付けている場合があります。これは最も正式で丁寧な方法ですが、年中受け付けているわけではないことや、神棚本体の引き取りは難しい神社もあるため、事前に電話で確認が必要です。初穂料として5,000円~数万円程度の費用がかかります。
B. 神棚販売店・仏具店に依頼する
仏壇と同様に、神棚の買い替え時に古い神棚の引き取りサービスを行っている販売店もあります。手軽に処分できるメリットがありますが、仏具店・販売店での引き取りの場合、供養は別途神社などに依頼が必要な場合もあるので確認が必要です。費用相場は5,000円~3万円程度となります。
C. 不用品回収業者などに依頼する
神棚の回収サービスを行っている不用品回収業者に依頼することも可能です。自宅からの回収を任せられますが、事前に自分で「お清め」(塩を撒くなど)をしておく必要がある場合が多いです。費用相場は1万円~3万円程度です。

D. 自治体の可燃・粗大ごみとして出す
神棚を「もの」として処分する場合でも、仏壇と同様に心の区切りをつけることが大切です。まず神棚からお札を取り出し、神社に納めるか白い紙に包んでお清めして処分します。その後、神棚本体を白い布や紙で包み、その上に清めの塩を少々撒いてから自治体のルールに従って分別して処分します。費用は数百円~数千円程度です。
5.処分を依頼する際の注意点と費用相場
いざ処分を依頼する際、トラブルなくスムーズに進めるための注意点を確認しましょう。
1.位牌・ご本尊・お札の扱いは仏壇・神棚本体より重要!
処分を検討しているのが仏壇・神棚の「入れ物(本体)」だけなのか、中に納められている「魂の依り代」である位牌、ご本尊(仏像や掛け軸)、お札も含むのかを明確にしましょう。
位牌やご本尊は、仏壇本体よりも大切に扱うべきものです。処分する場合、仏壇本体とは別に閉眼供養が必要です。新しい仏壇に移す、永代供養をお願いするなど、ご先祖様をどう祀り続けるかを優先して決めましょう。お札についても必ず神社に納めるか、お清めして処分しましょう。
2.費用は「お布施」か「料金」か
費用については、依頼先によって名称と性質が異なります。お寺や神社に支払う費用は、読経や儀式に対する感謝の気持ちを表す「お布施」や「初穂料」であり、定価はありません。一方、仏具店や処分業者に支払うのは、サービスに対する対価である「料金」であり、事前に必ず見積もりを確認しましょう。
お寺に「お布施はいくらですか?」と聞くのは失礼にあたる場合があるため、「皆さん、おいくらくらい包まれていますか?」と尋ねるなど、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。
3.悪質な業者に注意!

近年、仏壇や神棚の処分を請け負う業者が増えていますが、中には不当に高額な費用を請求したり、適正な供養を行わなかったりする業者も存在します。
安心して依頼するために、複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」を行い、料金体系を比較しましょう。また、供養が確実に行われたことの証として「供養証明書」や読経の報告を発行してくれるか確認することも大切です。
6.まとめ:故人や神様への敬意を胸に

仏壇や神棚を処分することは、決して後ろめたいことではありません。家族構成やライフスタイルの変化に伴い、お祀りの形が変わっていくのは自然な流れです。
しかし、長年にわたり家族を見守ってくださったご先祖様や神様への感謝と敬意を込めて、「閉眼供養(魂抜き)」という正式な区切りを設けることが最も大切です。
「どこに頼むか」に迷ったら、まずは菩提寺(なければ地域の寺社)に相談することから始めましょう。適切な手順を踏んで、気持ちよく次のステップへと進んでください。
次のステップ
まずは、ご自宅の仏壇や神棚に納められているもの(位牌、ご本尊、お札など)を確認し、菩提寺や地域の神社に連絡して供養の相談をしてみましょう。もしお付き合いのある寺社がない場合は、複数の仏具店や専門業者に見積もりを依頼して、費用の相場やサービス内容を比較検討してみることをお勧めします。